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K.YAIRI CYTM

K.YAIRI CYTM

■ Commentary  ■

K.Yairiのギターとの出会い

この日本のK.ヤイリのギターは、完全にドミニクのメイン・ギターになりました。

現在ドミニクはヤイリのギターは5、6本同じタイプのものを所有していると思います。あまりにも気に入ったため、、スティングにも同じ物をプレゼントしています。アルバム『The Bridge』でスティングがこのギターを沢山使っています。

このギターとドミニクの出会いは、2004年にスティングのツアーで日本に来た時に、The BOOM宮沢和史(Kazufumi Miyazawa)さんからプレゼントされたのが始まりです。ドミニクは宮沢さんのソロアルバム『Sixteenthmoon』(1998)に全面的に参加しており、彼とはそれ以来交流があります。だから、ドミニクはこのギターを手に入れてからしばらく、このギターを「Kazafumi」と呼んでいました。多分少しだけ宮沢さんの名前を間違えていたんでしょう。そして「このギターを気に入ってしまって手放せないんだ!」ととても嬉しそうでした。

最初に宮沢さんからプレゼントされたモデルはナチュラル・フィニッシュのもので、宮沢さんが「001」番を所有し、ドミニクが「002」だったそう。しかしすぐにとても気に入ったため、同じタイプのブラックモデルを自分でオーダー。それが「003」で、それと同じものをスティングにプレゼントしたのでスティング「004」を所有しているとのこと。

ドミニクがレコーディングで使うのは主にナチュラル塗装のモデル、ライブで最近までずっと使っていたのは色だけが違うブラックモデルです。
その理由は「ブラックの方がロックっぽくてカッコいい!」

上の写真に写っている白いギターは、彼が最も最近手に入れたギターです。これは基本的に最初に手に入れたモデルと同じ仕様です。というか、ドミニクは 「今までの仕様が最高だから変えないで!」と頼んでオーダーしたようです。しかし、毎回同じではつまらないので、今回はヤイリの方が 「色を変えみてはどうか?」と提案したそう。ということで、彼は思い切って今回白をオーダーしました。
ドミニクはこのギターを「Grace」と呼んでいますね。確かに本当に気品を感じる美しいギターです。

そしてよく見るとこのギターは今までのものとは違って、フレットにイニシャル「DM」の文字を白蝶貝か何かで埋め込んでいるようです。だから余計に「気品」を感じさせるギターです。また、彼は恐らくナチュラルカラーのものは「Blondy」って呼んでると思います。

ドミニクがヤイリのこのギターの一番気に入っている点は「とにかく倍音の響きが素晴らしい!」という事です。

本当にドミニクはこの日本の工房が作るこのギターを愛してくれているようで、海外のインタビューでもその素晴らしさを語ってくれていることが多いです。例えば、ドイツのインタビューでもこのように語っています。

「日本のヤイリのギターは、厳選された古木を使って作られているから素晴らしいんだ。私のヤイリはメイプル材を何年も熟成させてから削り出したものです。木材のカッティングはギターの音に大きな影響を与えると私は確信している。そして日本人は誰よりもギターのために木材を細かくカットすることに長けている。」

日本人としてはドミニクのような、非常に音にこだわりのあるミュージシャンに日本の楽器をこれほど気に入ってもらえるのは本当に嬉しい限りです。
まあ、ギターに限らず、木を扱うことに関しては、日本人はおそらく世界一だと思います。何千年もの間、生活のあらゆることに木を使ってきた民族ですからね。使う目的や状況に応じて我々は木の扱い方を巧みに変えます。また基本的に日本人は手先が器用な人が多いので、こういった手作りの製品の品質はやはり非常に高いと思います。規格品のものでも基本的に求める品質の水準も高いし、それをクリアしないものは世の中に出さないというプライドはあると思います。

ですからドミニクはギターをこれから始めようとしている人にはYAMAHAのギターを薦めてくれる事が多いようです。そこまで面白味はないかもしれませんが、価格も手に入れやすいし、何より品質はとても安定しているからだろうと思います。

このギターの詳細

このヤイリのギターの詳細です。
まずこのヤイリというギターメーカーですが、1935年に矢入楽器製作所としてスタートし、当初はギターを含め様々な木製楽器を製作していましたが、1965年にヤイリギターとして本格的なギター製造を始めました。ヤイリギターの特徴は、時間と手間を惜しまない丁寧な作り、独自なアイディアによるオリジナル設計、良質な木材と十分な自然乾燥、演奏のしやすさ、そしてこの水準・品質の楽器としてはかなり良心的な価格設定なんだそうです。

ドミニクが長らくライブで使用していた、黒のモデルは、2010年に製作されたオーダーメイド・モデルです。本来だとオーダー品であるためモデル名はないのですが、このギターに関しては海外でも人気があり「CYTM E 」という名称で、現在もヤイリ・ヨーロッパを通じてヨーロッパで販売されています。しかし残念ですが、日本のホームページには該当するモデルが掲載されておらず、日本ではこのギターはカスタムラインとして完全にオーダーする以外、入手は離しいとのことです。

品番の「CYTM」は、これは、C(クラシック)、Y(Yairi)、T(トーレスタイプ)、M(メイプルボディ)という仕様を表現しています。その後の部分は、例えば「E」であればエレクトリック仕様を表しています。この写真の「TPWHE」がどういう内容を示しているのかはちょっと不明です。

このモデルは基本的にクラシック・ギターとして製作されています。写真を見ると、スケールに対してボディサイズが通常のギターよりかなり小さい事がわかります。

これはトーレス・モデルと呼ばれる18世紀に作られたクラシック・ギターをモチーフにしてデザインされているものです。一般的なクラシックはボディ幅が390mm前後であるのに対して、この「CYTM E 」は327mm。マーティンの小型モデルであるシングル 0 (343mm) よりも更に小さい。

ドミニクはこのギターは倍音の響きが素晴らしい、と言っていますが、でも、K.Yairiのホームページの、この小さいタイプのギターを制作している職人さんのコメントを読むと、「通常のクラシックギターと比べてサイズが小さいので、音の響きとデザインを調和させるのがとても難しいんです。」と書いてあります。という事は、相当に気を遣ってギターを制作しているんでしょう。

ヤイリのトーレス・タイプにはいくつかの種類があり、ドミニクが選んだのは最もコンパクトなモデルです。だからこのギター、かなり「軽い」んだそうです。あとは詳しい事は私はよくわからないんですが、この軽さのもう一つの理由として、日本の雑誌「Player」2019年5月号には「ヤイリがニカワ接着を採用しているからだ」と書いてあります。

使用されている木材は、ボディトップがシトカスプルース、サイドバックにはメイプルを使用。
そして、写真では分かりにくいですが、黒のギターの塗装はマットなものではなく、塗装の下にメイプルの杢目がうっすらと見えるんだそうです。それはとても綺麗でしょうね!

スケールは640ミリで、現代のクラシック・ギターより10mm程度短く設定されています。

エレクトリックモデルの電装アッセンブリは、フィッシュマンのマトリックス・インフィニティ・ピックアップ&プリアンプ・システムです。これはフィッシュマンの人気モデルで、コントローラーはサウンドホールの内側にあるため、リアルでナチュラルなナイロン弦サウンドを出力するだけでなく、ギターとしての外観を損ねないように配慮されています。

で、他にも実はドミニクはこの「CYTM」以外にもヤイリのギターを持っているようですね。

ドミニクは2023年3月に日本にスティングのツアーで来た時、日本の「Acoustic Guitar Magazine」96号の取材を受けています。その時に持ってきたギターは2010年製の「RAG-65 Custom」です。素材は「CYTM」と同じ。スケールは609mmだそうです。

11月頭に、ドミニクのライブが数回、ドイツで行われますが、きっと白の「Grace」が使われるんじゃないでしょうか。

Dominic Miller@Tokyo 10/03/2023

※この記事は「Player」2019年5月号と「Acoustic Guitar Magazine」96号を参考文献として書かせていただきました。

11.26.2023追記 (11.30.2023 Postscript)

ドミニクが使用している弦はなんでしょうか?
ドミニクは弦高をどのくらいにしているのでしょうか?

【それ以外の補足説明】

Guild Paloma
Guild Peregrine
1986 Manuel Rodriguez