■ Fourth Wall ■
■ Musicians ■
■ Dominic Miller(ドミニク・ミラー):G,Key,Synthesizer[Keyboard Bass],Electronic Drums ■ Nicolas Fiszman (ニコラス・フィズマン):Ba ■ Rhani Krija (ラーニ・クリヤ):Per ■ Pino Palladino(ピノ・パラディーノ):Ba/Tracks(3) ■ David Heath (デヴィッド・ヒース):Flute[Alto,Celtic]/Tracks(2,4,8,9) ■ Mike Lindup(マイク・リンダップ):Synthesizer[Prophet5],Vo/Tracks(4,6,7,9) ■ Chris Botti(クリス・ボッティ):Trumpet/Tracks(3) ■ Adam Glasser(アダム・グラッサー):Harmonica /Tracks(9) ■ William Topley(ウィリアム・トップリー) :Vo/Tracks(10) ■ Claudia Kennaugh (クラウディア・ケナウ) :Vo/Tracks(8,10) ■ Misty Miller(ミスティ・ミラー):Vo/Tracks(2) ■ Rufus Miller(ルーファス・ミラー):Vo/Tracks(2) ・Recording - Le Bureau(London 2005-2006) ・Producer - Dominic Miller ・Recorded and Mixed By – Dominic Miller ・Mastered by - Tony Cousins
■ Songs ■
01. Iguazu(3:09) 02. One More Second(4:11) 03. London Paris Cardiff(4:09) 04. Meeting Point(5:26) 05. Lyre's String(3:33) 06. The Bridge(1:35) 07. Lost And Found(4:09) 08. Gabe(5:05) 09. Three Souls(4:52) 10. Count It Off(2:34) 11. La Belle Dame Sans Regrets (Bonus Track-Japanese Edition Only) (11.Rise And Fall,12.La Belle Dame Sans Regrets - 2.10.2009.US Edition) All Songs:by Dominic MIller Except:'London Paris Cardiff'by Dominic,Pino,Manu 'Lyre's String'by Dominic,William Topley 'One More Second'by Dominic,Rufus
■ Release ■
■ Release Date:2006 ■ Rabel:Q-Rious Music(Ger) ■ Number:QRM 108-2 ■ CD,Album ------------------------------------- ■ Release Date:10.25.2006 ■ Rabel:Q-Rious Music(Japan) ■ Number:IECP-10070 ■ CD,Album,digipak ------------------------------------- ■ Release Date:2.10.2009 ■ Rabel:Q-Rious Music(US) ■ Number:QRM 108-2 ■ CD,Album
Commentary
アルバムと曲について
2005年から2006年にかけて録音されたドミニクの5枚目のアルバムです。2006年にリリースされこのアルバムは日本でも同時リリースとなりました。その2年前からドミニクは自分のミュージシャンとしての生活を追ったドキュメンタリーを撮影されています。上の動画はその抜粋です。これは今はもう見ることは出来ないものですが、一部はまだ見られるようです。これはドミニク・ミラーという音楽家の音楽への取り組み方をに焦点を当てて長い時間かけて制作されたものなので、今は見れなくなってしまっているのは少し残念ですね。
参加メンバーは、昔からの仲間であるマイク・リンダップ、デヴィッド・ヒース、ピノ・パラディーノだけでなく、現在の彼のバンドの方でもお馴染みの、ニコラスやラーニ・クリジャといったメンバーが加わります。クリス・ボッティもいます。あとは彼の大事な家族、ルーファス、ミスティ、そして姪のクラウディアがヴォーカルで参加しています。
「 Iguazu」はスティングがお気に入りの曲だったようです。そしてこの「 Iguazu」とは、アルゼンチンとブラジルの国境にある壮大な滝のことですが、それだけではありません。「 Iguazu」とは、1984年にドミニクがフルーティストのデヴィッド・ヒースと作ったバンドの名前です。このバンドは残念ながらメジャーデビューには至りませんでした。しかし、YouTubeでその時のアルバムの曲を聴く事ができます。聴くと、このアルバムに収録された「 Iguazu」のメロディが入っています。
これはドミニクが大好きなジョン・マクラフリンみたいな凄いカッコいいJAZZ Fusionアルバムで、私は凄く好きです。何故これでメジャーと契約出来なかったのかな?と思ったくらいです。でもまあこういったインストゥルメンタルのアルバムはあの時代のロンドンのロックやポップスが溢れる中では難しかったのかもしれないですね。
ドミニクは後年、「そういったジョン・マクラフリン的な音楽をやりたかったけど、家庭もあるし、もっと稼がなきゃいけなかった」みたいな事を言っていたので、様々な事情があったのでしょう。だけど、一番最初に彼はこういった音楽をやりたかったんだな、というのがわかるので、興味のある方は是非聞いてみてください。(「Iguazu」)
でも、もしこの時これでデビューしていたら、きっとドミニクのその後の音楽は今のようにはなっていなかったと思うので、それで良かったんだと思います。
「One More Second」にはドミニクの子供達、ルーファスとミスティがコーラスで参加しています。そしてこの曲は、日本の作曲家・ピアニストである故・坂本龍一の娘である、坂本美雨さんにも提供された曲です。彼女の『Harmonious』(2006)にこの曲は収録されています。それはここで聴く事が出来ます。(33:55から)ドミニクがスティング以外の歌手に曲を提供するのはかなり珍しいと思います。
この曲がどういう経緯で彼女に提供されたのか、私はよく知りません。最初から提供する事を約束していて、彼女の為に書いたのか、書いてあった曲を彼女に提供したのか。ただまぁ、ドミニクのこの『Fourth Wall』は、彼のソロで初めて日本盤が制作されたアルバムで、また、それと併せて日本限定でベストアルバムである『Heartbeats』がリリースされているので、何かしらそれに合わせた日本での話題が欲しかったのかな、と推測しています。何故彼女を選んだのかは全然わからないですね。でも友達であるマヌ・カチェが坂本龍一の1992年のツアーでドラムを担当していたり、ドミニクのマネジメント会社も何やら坂本龍一とは仕事をした事があるようなので、その辺の繋がりがあったのかな、と推測しています。
「Meeting Point」はPVがあります。とてもいいので是非見てほしいと思います。とても優しい美しい曲です。これはドミニクの母方の故郷であるアイルランドの印象を強く出している作品です。冒頭のデヴィッド・ヒースのアイリッシュフルートが一気にケルトの世界に引き込みます。しかしドミニクのギターのメロディ自体はスパニッシュ的な色も多く感じます。リズムに関してはブラジル的です。彼は本当に自然にシンコペーションのリズムが出てくるんでしょうね。この多国籍な様々な要素の混合は、ドミニクでしか作れない世界である事は明らかです。
「Lyre’s String」は、ウィリアム・トップリーのヴォーカル入りで録音されていましたが、アルバム全体のインストゥルメンタルの雰囲気を保つためにヴォーカルを抜いた形で収録されました。
この「Fourth Wall」はドミニクのソロ作品としては初めて日本盤が制作されました。日本盤にはボーナス・トラックとして「La Belle Dame Sans Regrets」(邦題:悔いなき美女)が収録されています。この曲はStingの『マーキュリー・フォーリング』にも収録されており、ドミニクがボサ・ノヴァの帝王、アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げたものです。一見ラブソングのように思えるこの曲ですが、スティングがこの曲につけたフランス語の歌詞は、当時、フランスが東南アジアで行った核実験に抗議する内容になっていて、この「自分のやっている事を後悔しない美女」とはフランスを指しているのだそうです。あと、この曲に関しては昔、ドミニクが「この曲を演奏するのは結構難しいよ」と言ってたのを記憶しています。それはブラジルスタイルのギターの奏法を「難しい」と言っているのだと思います。これに関しては下の「Dominic’s Comments」欄をご覧ください。
「Fourth Wall」の意味
また、このアルバムの発売当時、ドミニクが昔のHPに書いた文章を読んで、「なんだかとても辛い状態なのかな?」と感じた記憶があります。アルバム「First Touch」のようなアルバムを希望されることに強い抵抗を示しています。とりあえず読んでみてください。
「(アルバム制作は)山あり谷ありでしたが、この経験は私をより豊かなものにしてくれました。自分の長所と短所(特に後者)について多くを学んだ。今でも欠点は耳にするが、それは常にそこにあるものだと今は受け入れている。しかし、私は完璧ではないし、これからも完璧にはなれないだろう。ただ音楽家として、人間として向上しようとしているだけだ。少しは進歩したと思っている。反対する人もいるかもしれない。それは、音楽的に年齢を演じることの問題だと思う。もし私が過去にやったことを再現しようとしたら、それは中年の男が昔履いていた古いジーンズを履いて滑稽に見えるのと同じことだ。「First Touch」ようなアルバムは二度と作れないし、作りたくもない。このアルバムは、私が今宇宙のどこにいるのか、そして人生と音楽に対する今の私の考え方を表している。それが良いものかどうかは、時間が経ってみなければわからない。私のアルバムは誰もすぐに “納得 “したことはないし、ほとんどの人が「前作ほど良くない」と言う。そのような人たちはたいてい、1年か2年後に「わかった」と私に言ってくれる。そしてまたアルバムを作ると、また同じことが起こる。これが面白いんだ。すぐに理解してほしいとは思わない。もしわかってもらえたとしても、それが音楽について多くを語ることにはならないと思う。友達を作るようなものだ。私の親友の何人かは、最初から理解できない人だった。彼らは私に、彼らを理解したいと思わせた。私は彼らと意味やつながりを見つけようとした。今はずっと友達だ。このアルバム「Fourth Wall」で、あなたがつながりや意味を見出してくれることを心から願っている。」
この文章を読んだ後に、このアルバムのタイトル「Fourth Wall」を見ると色々な事を考えてしまいます。この「Fourth Wall (第四の壁)」というのは演劇用語です。円形劇場などではなく、一方向から見る劇場の場合、舞台には「プロセニアム・アーチ」という額縁のようなものが存在し、舞台と観客席との境界線を形成しています。「第四の壁」とはそのプロセニアム・アーチ付きの舞台の正面に築かれた、想像上の見えない壁であり、フィクションである演劇内の世界と観客のいる現実世界との境界を表す概念です。この「第四の壁」は、「観客と舞台を永遠に隔てる透明な幕」と表現されたりもします。
通常の場合、観客は「第四の壁」の存在を意識することなく舞台上の虚構の物語を自然に見ています。しかし、この「第四の壁」は意識的に破ることで思いがけない演劇上の効果を産む事があります。例えば、舞台上の役者が観客に呼びかけることで「第四の壁」を破り、観客がより能動的に劇を見るように仕向ける、などです。
この「第4の壁」の意味を理解し、上記のドミニクの言葉を読むと、私は彼がパフォーマーとしての自分とリスナーとの間に存在する「永遠に透明な壁」を少し感じながらも、その「壁」を自分が意識的に壊すことで、リスナーを自分の世界に引き込みたいという強い思いが、このタイトルに込められているのではないか?と想像します。
でも、ドミニクはは自分のアルバムには数字の入ったタイトルを選ぶ傾向があるので、このタイトルに私が想像するような深い意味はないのかもしれない。だけど、私はそう感じました。
私はドミニク・ミラーは本当に正直でまっすぐな人だと感じます。普通ならもっと自分をよく見せようとしたがるものだと思います。自分の音楽と聴衆に対して、これほど率直な言葉や態度を示せるミュージシャンはあまりいないと感じます。
Dominic’s Comments
「 One More Second」:フルートと木管楽器のパートは、私が提案したテーマをデビッドが即興で作ってくれたんだ。彼がそれを発展させたんだ。
「アルバム制作について」:曲順の決定はギリギリになりました。 もう一つはちょうどいい感じではありませんでした。 私は新しい曲順にとても満足しています。よりスムーズに進むと思います。自分がやったことを聞くたびに、どうすれば改善できるかを常に理解できます。 でも、それができるかどうかは別問題です。これまでのキャリアの中で、どの曲も完璧に録音したり演奏したりしたことはないと思います。これが私を改善する原動力の一部です。 私は時々古いアルバムを聴きます。その作品との距離や時間が離れるほど、聞きやすくなります。それらは私が精神的にも感情的にもどこにいたかを思い出させてくれるので、私はそれらをもっと受け入れることができます。新しい作品であればあるほど(「Fourth Wall」のように)聞く事が難しくなります。なぜなら、それは今、宇宙における私の居場所なのでそこから変化や変更の可能性を常に耳にすることができるからです。
「La Belle Dame Sans Regrets」の演奏方法について:この曲を弾くのはかなり難しいので、忍耐力が必要だ。この曲のコツは、メロディーを単独で弾く練習をして、できるだけ “歌う”ようにすること。それからリズムも同じようにして、できるだけスムーズでリラックスしたものにすること。なぜこんなことを言うかというと、パートを分ければ、その性質を理解するチャンスが増えるからだ。それから一休みする。今度は両方のパートで、練習したことを思い出しながら曲を弾いてみてください。きっと上達が見られると思う。ボサノヴァやその時代のほとんどのブラジル音楽の素晴らしさは、ギターのパートが自己完結していることだ。巨匠はバーデン・パウエルというギタリストだろう。彼はまるでオーケストラのように、互いに異なるパートを演奏し、ポリリズムにさえ取り組んでいた。深い!
「使用ギターについて」:この楽器にはまってしまって、手放せないんだ。(※2004年にドミニクがThe BOOMの宮沢和史さんから贈られたKヤイリのオールメイプル製のトーレスカスタムモデルの事。ドミニクは宮沢さんの1998年リリースの1st.ソロアルバム「Sixteenth Moon 」に参加している。そのためドミニクは最初このギターを”Kazahumi”と呼んでいた。)このギター(ホロウ・ボディ)とギルドやP-Projectなどのソリッド・ボディ・ギターとのレコーディングの違いは、倍音にあります。本物のアコースティックだから、ピックアップがブリッジから出る音だけでなく、楽器全体に反応しているんだ。
■ Video ■
「Meeting Point」のPVと2019年のベルリンでライブでの演奏です。なんとも言えない優しい空間が広がる本当に素敵な曲です。PVの方はドミニクの愛おしそうにギターを弾く優しい表情にも癒される感じです。
■ Review-1 ■
レビュー:ドミニク・ミラーはスティングのギタリストとして知られるようになった。それ以外にも、ピーター・ガブリエルやマヌ・ディバンゴなど、他のアーティストのアルバムを数多く洗練させてきた。彼の4作目となるアルバム「Fourth Wall」は、落ち着いた雰囲気のインストゥルメンタル・ミュージック。ほとんどがアコースティックなパートで、シンセサイザーのフィルミング、控えめなベースとパーカッションが添えられている。ミラーは非常に叙情的な曲を演奏し、そのハーモニーは時に彼の雇い主を思い起こさせる。この男にはスタイルがあり、アコースティック・ギターを絶対的にマスターし、技術的な正確さと音楽性の組み合わせで感動を与える。ミラーにとっては、音と雰囲気がすべてなのだ。【ギター&ベース・マガジン】
■ Review-2 ■
レビュー:彼の強みは適応力だ。アメリカ人ギタリストのドミニク・ミラーは、スティングからパヴァロッティまで、プロジェクトの美的長所を見極める確かなセンスで適切なサウンドを選択するため、ほとんどすべてのバンド・サウンドに高貴さを与えるサイドマンである。しかし、彼はまた、ロック・ポップスという日常的なルーティンの中で、往々にして脇に追いやられがちな、ソフトでセンチメンタルな曲にも弱い。だから、彼自身の名前での5枚目のアルバム『Fourth Wall』が、時にキッチュに、難解に、しかしそれを越えることなく境界線を越えているのは驚くにはあたらない。マイク・リンダップ(レベル42)やアルマーニのブラス・プレイヤー、クリス・ボッティといったスタジオ・フラクションの仲間に支えられながら、彼は(できればアコースティック・ギターで)かわいらしくソフトなジャズ調のメロディーを奏でる。これには魅力があり、聴く者を優しくリラックス状態へと誘う。すぐに夢の国に流れ込まなければの話だが。【ジャズ・シング誌】