Great conversation with Andy G. Jones-1 (7.14.2023)
これから3回に分けてドミニクがアンディ・G・ジョーンズというギタリストから受けた2023年の7月の1時間にわたるロング・インタビューの動画を紹介します。この動画はドミニク・ミラーがどういう人で、どういう音楽観を持つミュージシャンなのかという事の理解にかなり役立つと思います。
In the next three parts, I will present a video of Dominic was interviewed for over an hour by a guitarist named Andy G. Jones around the summer of 2023.I think this video is very helpful in understanding who Dominic Miller is and what kind of musician he is and what his views on music are.
このインタビューは、その後に出た現在180万回以上再生されているYouTubeのRick Beatoとのインタビューほど注目されていないようですが、個人的に本当にかなり面白かったです。今までずっと詳細が解らなくて知りたかった事がドミニクの口から具体的に語られているからです。このインタビューは、私の疑問の多くを納得させてくれました。リックとのインタビューはドミニクは非常にフォーマルな感じで応じている印象がありますが、こちらはドミニクがカジュアルに、さまざまな事をざっくばらんに話している印象です。とにかくドミニクが沢山話しているので、一回目は最初から27分くらいまでの内容をまとめて掲載します。
This interview doesn’t seem to have received as much attention as the interview with Rick Beato, which has since been viewed over 1.8 million times on YouTube, but I personally found it pretty interesting. This is because Dominic is actually very specific about something I have wanted to know ever since. This interview made sense to me about many my questions. So I wanted to introduce this for a long time.
Dominic is very formal in his interviews with Rick, but here I get the impression that he is much more casual and frank about many various things. Anyway, Dominic talked a lot, so in the first session I will summarise the content from the beginning of the video to about 27 minutes.
今回の1回目の記事の部分の動画(Video on this first part of the article)
この1回目の部分で彼が話しているトピックは以下の内容です。
- アルバム『Second Nature』収録曲「Rush Hour」について。そしてそれを演奏しているツイーターズ(ドミニク、ピノ・パラディーノ、マヌ・カチェ)について。
- アルバム『Vagabond』収録曲「Clandestin」についてのドミニクの解説。また、ドミニクがレコーディングの時に、バンドメンバーに曲についてどのように指示を出すか。彼はその指示の出し方について詳しく語っています。この件は私がずっと知りたい事でした。
- 2.で語っているドミニクのバンドメンバーに対する「音楽の伝え方」は、誰から影響を受けたものなのか?私は勿論スティングから彼が受けた影響の話は出てくるだろうと思っていましたが、予想外の事からの影響や、意外なミュージシャンからの影響が語られています。
- ECMのマンフレート・アイヒャーのプロデュース方法について。私は今までにドミニクが他のインタビューの記事で、それについて語っていた言葉が具体的にどういうことなのか、あまりよくイメージできませんでした。しかし、ここで彼はかなり具体的にその事について語っています。
ドミニク曰く「ECMは臆病者、弱虫には向かないレーベルだ」という事です。これは一体どういう意味なんでしょうか?
ドミニクは最新作『Vagabond』で、実は25曲以上を用意していました。しかし、実際に収録されたのは新曲が7曲と、昔の曲である「Altea」の計8曲です。
1日で書き上げた曲もあれば、1ヶ月かかった曲もある。ほとんど自分で書いているような曲もあるし、私はインスピレーション源であるソースから書き取るだけです。 それが最良のシナリオです。 他のものはもっと時間がかかります。なぜなら、私は通常、一緒に機能する 2 つのコードなどの「手がかり」を提供され、それをうまく組み合わせて全体像を完成させなければならないこともあるからです。いずれにせよ、私は始めたアイデアは必ず完成させます。このアルバムのために約 25 曲書きましたが、レコードに収録されたのは 8 曲だけでした。
https://insounder.org/dominic-miller-i-want-work-musicians-who-understand-space-and-colour
そして、ドミニクは以前のインタビューでECMのマンフレート・アイヒャーのプロデュースについて「ミュージシャンをコンフォートゾーンから押し出す」というような発言を何度かしていました。つまり、はっきり言えば「不快な状況に置かれる」という事です。
DM : マンフレートは5人目のビートルズのようなものだ。彼の役割は映画監督のようなものです。俳優をある種の特定の状態にする。コンフォートゾーンではない状態。そうすることで面白いことが起こるんだ。彼は、自分ひとりでは決してできないような演技を引き出す、本当に刺激的なプロデューサーなんだ。彼は本当にインスピレーションを与えてくれるプロデューサーだ。
https://store.vintageguitar.com/august-2023.html
Vintage Guitar Magazine Aug.2023
だけど結果的にマンフレートのやっている事は「正しい」と。だからその間の過程に一体何があるのか、全然わかりませんでした。しかし、このインタビューではその内容が具体的に語られています。
とても長いインタビューなので、そのまま全部を和訳する事はしません。大まかに概要をまとめて大事だと思う部分はできるだけドミニクの言っている事を、少し解説と補足を加えながら分かりやすく書きたいと思います。しかし、私も決して英語が得意な人間ではないので、若干ドミニクが言ってることとニュアンスが違う部分もあるかもしれませんがご容赦ください。
「Rush Hour」という曲、The Tweeters(ドミニク、ピノ・パラディーノ、マヌ・カチェ)の話
Andy(以降 A):今あなたのソロを集中して聞いているよ。まず昔の「Rush Hour」という曲を聴いたけど、すごく面白かった。そしてあなたがマヌ・カチェ、ピノ・パラディーノと一緒にその曲を一緒にリハーサルしているビデオを見たんだ。すっごく似ているという訳じゃないけど、少しウェイン・クランツ( Wayne Krantz:注釈 )の何かのフレーズラインに似ているような気がしたんだ。
これがThe Tweeters。若い頃からの仲良し3人組。本当に昔よくレコーディングで顔を合わせたそうです。そして待ち時間によく一緒にジャムっていたとの事。 アルバムのリリースやツアーも考えていたけど、全員が忙しすぎて都合が合わず、ポシャった・・・。きっとスーパーバンドになたと思うので、残念で仕方がないですね。一度でいいから実際に見てみたかった!
ウェイン・クランツ 。ハード・フュージョンっぽいです。上手いしカッコいいです。スティングでドラムを担当したキース・カーロックとはトリオでアルバムを出しています。スティーリー・ダン繋がりですね。しかし、キースは好きなんですが、あまりにユニークすぎて、いつ見てもこのスネアが普通のセッティングとは逆に、奥に傾斜してるのが気になってどうしようもない(笑)
ドミニク(以降Dom): ありがとう。あなたがどの曲をいってるのかはわからないけど、ウェイン・クランツはとっても好きだよ。素晴らしいギタリストだ。けど、僕は” Blue of Sonic Illusions”みたいなアイデアが好きなんだ(このドミニクが言っている曲は調べましたがよくわかりませんでした。)そう、つまり「この曲は何拍子なのか?」と聞かれることです。そしてそれに対して私は「4分の4拍子だよ」と答えるのが好きなんです。
私の曲に「Tizane」という曲があるんですが、みんなその曲で何が起こってるのか分かってないんだ。あれは2拍目から入っていくんだ。バッハのトリックや、ベートーヴェンの「運命」の冒頭のように。半拍子みたいなものだけど、何か4分の4拍子みたいになるっていう全体のアイデアが大好きなんだ。でも、みんな別のものだと思っている。それと同じことで、ピンク・フロイドの 「Money 」のように、変拍子なのに4分の4拍子に感じるリフも大好きなんだ。
A:(変拍子といえば)Seven Days だね。(Sting「Ten Summoner’s Tales」収録)あれは史上最高のグルーヴの曲だ。あのアルバムが発売された時、みんなノックアウトされて、隅々まで分析したよ。
Dom:あれはヴィニーが天才なんだ。(ドラムのヴィニー・カリウタの事)ヴィニーがあの曲を、みんながとても受け入れやすいように演奏したからね。
A:あなたの曲「Rush Hour」に戻ろう。あの動画ではマヌ・カチェが楽屋でリズムを刻んでいて、ピノ・パラディーノがいつものように正確なリズムを刻んでいる。だけどあの時だけであの曲を覚えるほどみんな人間離れしているわけじゃないと思うんだけど、ただあなたは彼らにそれをそのまま教えただけ・・・?
Dom:いや、かなり人間離れしてると思うよ。昔、ピノ、マヌ、僕の3人でこのTweetersというバンドをやっていたんだ。キャリアを通して3回ライブをしたと思う。この曲も一緒に演奏した曲のひとつだったんだけど、10年ぶりくらいに演奏だけど彼らはそれにある程度慣れていた。だけど、各セクションの内容や、どうやってあるセクションから別のセクションへ移動するのかを教え直さなければならなかった。というのも、それはアレンジメントの問題だからだ。でもそれがすべてだった。ただ、それを説明しただけなんだ。
A:これほど複雑なものですぐに観客を釘付けにするなんて、3人とも恐ろしい音楽的才能です。ちょっと怖いと思いました。私はピノの大ファンです。 とにかく、あのバンドの演奏はノックアウトでした。
『Vagabond』収録曲「Clandestin」と、ドミニクのバンドへの音楽の指示の方法
A:あなたの新しいアルバム『Vagabond』収録の新曲 「Clandestin」のビデオを見ました。あれは本当に面白かったです。 特にハーモニーに興味を惹かれました。ハーモニーの発想の仕方とか、ソロのギターパートの一番上のラインの使い方とかね。それが魅力的だと思った。(最初のリフを演奏しながら)これはとても巧い。 D major 7に戻ります。D majorをシャープにしていない作り方はとても巧妙です。しかし、私が言いたいのは、あなたがそれらすべてをプレイすることです。それからピアノソロに入るやり方が巧妙です。ピアノソロは、イントロBの終わりまでがとても巧いです。とても自然に聞こえるし、とても美しく流れる。
Dom:これもまたさっきとは別の例なんだけど、ワン、ツーで起きていることなんだ。つまり、キック・ドラムのダウンが「ツー」で着地しているようなものです。だから、これは逆さまのグルーヴなんだ。
A:質問ですが、あなたが自分の音楽でバンドメンバーとどのようにコミュニケーションをとっているのかに興味があります。最初に彼らに楽譜を渡したのですか、それとも少し話し合っただけで演奏してみたんでしょうか?あなたはどのようにメンバーが演奏しなければならないと伝えるのですか?
Dom:まず最初に、このアルバムのリハーサルを数日間行いました。ご存知のように、ECMのアルバムは2日間でレコーディングされます。文字通り2日間で、ミキシングは最大で2、3日。それで、南仏の私の家で数日かけて、基本的に構造、曲の構成、各曲の形式を彼らに見せたんだ。あなたが話すこの「Clandestin」という曲には、間違いなくフォームがある。そしてそのフォームとは、今あなたが正しく演奏したものです。だから、私は彼らにそのフォームを見せるだけなんだ。でも、次の段階はあのビデオの撮影をしたような状態のときなんだ。あの時、動画の撮影者がいたことさえ覚えていないけど、それは彼は非常に優れた撮影者だからだと思います。
そして、その時僕がやろうとしたのは、その物語が何なのか、音楽的な物語が何なのかを彼らに伝えようとしたんだ。この曲のタイトルは『Clandestin(密室)』なんだけど、それは僕がCovid-19でロックダウンの間、このバーに行ってぶらぶらしていて、窓を閉め切っていたからなんだ。オーナーは店を閉めていたし、時々警官が通りかかると、皆、酒を飲んだりタバコを吸ったりしているところを盗撮されないように、路地裏の高校生みたいなところに隠れていた。すべてが違法なんだ。だから、そういう不吉な雰囲気を出したかったんだ。だから、あの曲のグルーヴはそこから来ていると伝えたのです。私はある種の物語を語ろうとしています。そして、私がバンドメンバーに話した事は、これが構造だということです。
そして、私はこのアルバムにはピアノのヤコブがストライカーとして欲しかった。私が作る全てののアルバムにはストライカーがいます。私はバンドのミッドフィールドのようなもので、エリック・カントナ1のようなものです。輝ける才能のある人たちを持つ事が非常に重要です。そして、私はただ、そのフォームがどのようなものかをみんなに説明するだけです。
2回目は、ヤコブがやったような即興のストーリーを皆がやってみせるんだ。それからグルーヴを入れて、徐々に絵が浮かび上がってくるようにしたいんだ。だから、みんなにはペダルベースが欲しいとか、グルーヴは逆さまのグルーヴが欲しいとかは伝えているんだ。ヤコブは沢山の事をキャッチした。私は彼がやる事が本当に好きだった。本当にそれだけなんだ。
スティングから学んだバンドを率いる方法
Dom:さっきのコメントに戻るけど、これはスティングと同じだよ。私はスティングから多くのことを学んだし、今でもバンドを率いる方法を学び続けている。ミュージシャンに最高の演奏をさせる方法をね。
A:それは具体的に、どういうこと?
Dom:つまり、私が言いたいのは、スティングがバンドメンバーやセッション・プレイヤー、そして私との関係に対して持っている哲学の一つは、彼らを輝かせ、彼らが自分らしくいられるようにすることです。ただし、それは構造と物語が何であるかという厳密な制約の範囲内での話です。したがって、かなり厳しいです。
彼は学校の先生だったし、ある意味すごくアカデミックなんだ。ですが、でも楽しいし、楽しくありたいんだ。彼の哲学は、彼らが良く見えれば見えるほど、自分も良く見えるというものなんだ。だから、彼らがジャムってソロをやる方がいいというのはよくわかる。
でも私はそう考えていません。僕のバンドでは、ソロを弾いているとは思っていないんだ。それはむしろ遊んでるのに近いもので、私はただオーケー、じゃあ、サビを2回やってからあなたは演奏を休んで、という感じではない。 そういう事じゃない。本当に秩序立って計画されていた訳じゃなかった。
私がヤコブに言った事は、こことこのセクションで何らかの即興演奏をしてもらいたいという事で、そしてそれがソロとして解釈できるかどうかはリスナーが決めることですが、それは私の見方とは違います。
私がスティングから何を学んだかというと、ミュージシャンに最高のプレーをさせる方法です。先ほども言ったようにサッカーに例えると、中盤のようなものです。つまり、中盤の選手がすることは、適切な場所にボールを供給することなんだ。そして時々スペースをいつ使用するかということを考えます。いつスペースを使うか?いつプレーしないのか?それも同様にとても重要な事です。
それは光と影や、情報が無いのか多いのかと言うような事だ。それには時に冷静になる必要があるし、そうすることで、何か別のものが姿を現すようになるからね。
スティングから学んだちょっとしたトリックは、暗黙の了解のようなものなんだ。いつ黙るのか、なぜ黙るのか。それがストーリーと彼の音楽にどのように役立つのか?そして彼の音楽は歌詞を扱っているので、ある意味で簡単です。しかし、私たちはインストゥルメンタル音楽を扱っていて、私は物語を語ろうとしているんです。
そして、私がやっていることは、スティングのようなストーリーテリングの才能を、インストゥルメンタル・ミュージックで使うということで、それはとても重要なんだ。
私は多くの偉大なシンガーソングライターから学びました。皆さんはおそらく、私が一緒にプレイした何百人という凄いミュージシャン人達を見てきたと思いますが、そのセッションで仕事をするたびに、私はプロデューサーの側面もあるので、そのアーティストのプロデューサーとの付き合い方が「すごいな」と思うんです。
どうすれば、彼らは必要な場所にたどり着けるのでしょうか?ただジャムをして自分がプレイヤーとしてどれだけ優れているかを示すのではなく。それはもういいんです。あなたは仕事を得たのですからもう自分が優れている事を証明する必要はないのです。だから、ただ一歩下がっていればいいんです。
私がミュージシャンと一緒にやりたいことは、スティングのように、彼らを輝かせることです。しかし、私は誰からも、彼ら自身にあまり注目を集めたくないのです。そうすると、『あのアルバムのあのソロは聴いた?』みたいになってしまうから。私は、私の曲に関しては、みんなにそんなこと言われたくないんです。「あの曲聞いた?」って言ってほしいんです。
私はヤコブの演奏が大好きだったし、あのセクションは素晴らしかった。しかしそれは個人の功績じゃない。そしてそれは私の功績でさえありません。私はただの語り手なんです。
即興劇とマイルス・デイヴィスの哲学からの影響
Dom:それは演劇にかなり近いように思います。私はパリに住んでいてあまりライブには行きませんが、演劇を観に行くのは好きで、フランスの演劇に行くこともあります。俳優がテーマ、特に即興劇を一緒にやっているのを見るのが好きなんです。
だから『Vagabond』に収録されている曲も、私のすべてのアルバムに収録されている曲も、ひとつひとつが劇のようなものなんです。そして、それぞれの曲はその劇のワンシーン。そのようにアプローチすれば、物語を語るのはずっと簡単なんです。
まるで『スパイナル・タップ(Spinal Tap)』をやった俳優たちのようにね。『ガフマンを待ちながら(Waiting for Guffman)』もそうだし、『ベスト・イン・ショー(Best in Show)』もそうです。『ベスト・イン・ショー』では、全員が即興で演じていますが、テーマを持って取り組んでいて、とても美しく仕上がっています。『ベスト・イン・ショー』でも、彼らは本当にいい役者で、どんな役でもこなせるんです。
だから、僕のバンドには、ここでカントリーの真似事をしてみたり、あそこでボサノヴァの真似事をしてみたり、擬似クラシックの真似事をしてみたりするような人達を持つのが大好きで、私は彼らにそういう風にいう事が好きなんだ。 彼らはそれを完全に理解してくれます。
スティングも私に対してそうでした。『ドム、ここでカントリーを演奏してくれ』って。私はカントリーはあまり好きではありません。でも彼がそこでカントリー欲しいという意味はわかる。だから、そのキャラクターに自分を重ね合わせることができるんです。だから私たちは役者であり、そういう方法で私は自分のバンドにあのような演奏をさせているんです。
これはスティングと同じやり方です。ある意味物語を語ろうとしているんです。 単に音楽的なものを見せようとしていたり、音楽的才能の並べて展示しているのではありません。でも、もし人々がそれをそのように認識したいのなら、私は本当に誇らしく思います。なぜなら、間違いなく私には素晴らしいミュージシャンがいて、それがとても助けになっているからです。
パレットが広い人は、たくさんの色を持っています。そして最後に、彼らに共通する1番の超能力は本能です。だから私たちの演奏はだから、すべてのプレーで彼らの直感が欲しいんだ。それがあなたにとって何を意味するのか、あなたならどうするのか?という事を私は彼らに教えているだけです。
私はネットの向こう側にボールを投げます。そしてあなたは私に何を投げ返すのですか?という事です。投げ返すのは、それはあなたの見解です。マイルス・デイヴィスがかつてやっていたのと同じです。つまり、マイルスのハードルは非常に高く設定されているということです。 でも、私はバンドが常に言葉をリードするというマイルス・デイヴィスの哲学が大好きです。彼はただステージの脇で「しっかりやれ」と言うだけだった。
A:バンドをまとめる方法の説明として、あなたの話は非常に興味深いです。あなたのアルバムにはある種のスピリットがあります。彼ら全員がこのことを理解していると思います。少し前にRick Beatoと行った素晴らしいインタビューで、あなたとスティングがチームプレイヤーのことについて話していたことを思い出させます。
あなたはとてもリラックスしているように見えますが、自分のやっていることに確信を感じてるようにも見えます。目立とうとしているようには見えない。でも、他のインタビューでもそう言っていましたね。ギターのチョップを見せびらかそうと必死になっていない。
でも、もう一方で気づいたのは、ハーモニーが複雑で、リズムも複雑で、フォームも複雑な音楽だということです。ハーモニー的にすべてのトリックを投入しているわけではないような気もしますが、本当に深いです。もしあなたが映画監督だったらというような。でも、みんなそう言うよ。
技術的なことだけを知っている人よりも、個性的なスタイルと本物のキャラクターを持っている人の方がいい。技術的な知識だけでは、他人の作品のコピーになってしまう。
そして、このアルバムにはある種のヒプノティックな催眠術のような魅力があります。そして、それはECMであることは偶然ではないと思うけど、初期のメセニーのアルバムを思い起こさせたんだ。アルバム『80/81』までメセニーのサウンドは、物事を自分の判断で展開させていくようなところがあります。それは並外れた自信と方向性を示しています。
「ECMは弱虫には向かない」-アイヒャーのプロデュース方法
Dom:これでECMでアルバムを作るようになってから3枚目ですが、私は多くのことを学びました。実際に私は明確にマンフレートから多くのことを学びました。そして、あなたが映画監督の例えを使っているのは興味深いです。それはまさにマンフレートとの関係について私が思っている事だからです。
ストーリーや曲調、コンセプトがあったとして、スピルバーグに依頼すれば、それはあるひとつの形になりますが、ポランスキーやヒッチコックに依頼すれば、それはまったく違う形になるだろうという事です。そして、それはむしろマンフレートが音楽家として、そして作曲家としてやっていることであり、私は彼の領域に自分自身を置いているんです。
また、そのやり方は一方で、非常に不安を感じるので、かなりキツイ、ハードな場所です。ポランスキーやヒッチコックの感情が俳優の感情を左右するような方法なので、私は自分に自信がないと感じます。
しかし同時に、そもそも私は実際にそこにいるという事実のおかげで、とても力を貰っていると感じます。 彼は私に電話して、この状況を作り上げたのです。 彼は私たちが置かれているこの状況を作り出した設計者です。(2015年の8月に、ECMのアイヒャー側からドミニクに電話があって移籍に至った事を指している)そして、彼は私が作った曲を聞いているので、私が不安を感じている間も、その事は常に私の心の片隅にあります。
というのも、彼はたいていこう言うんだ。最初の曲は何にする?それでそれを演奏すると、彼はただこう言うんだ。 「もっと明るくなれよ。何もかも忘れろ。見てください、これは整理されすぎているように聞こえる。もっと自由にやらないと。」
それが彼が愛しているものだからです。だから、ミュージシャンとして投げやりになってしまうんだ。せっかく6週間もかけて作ったのに、突然プロデューサーが、いい出来だ、魅力的だ、でももっとあなたはいいものができるはずだ、と言い出したら……。
このECMの状況は万人向けではありません。ECMのようなレーベルに所属することを夢見る人は大勢いると思うし、私もずっと何年もそうだった。でも、実際にその状況になってみて初めて、それがどういうことなのかがわかったんだ。そして、それは弱虫や臆病者には向かないということだ。なぜって、自分のどうしようもない部分が暴かれる事になるから。自分がどんな人間か明らかにされるんだ。
それはまるでカメラマンがあなたの写真を撮るようなものです。そして彼はあなたに提出したい写真を見せますが、あなたはそれを気に入らないでしょう。自分の鼻や額の角度、あるいは髪型がヘンで気に入らないから。それはあなた自身が承認する写真ではありません。しかし、それはあなたがどういう人間であるかをより良く描写しています。それは実際にあなたが誰であるかをリアルに描写しています。
不完全なものに宿る美しさと魅力
Dom:そして私は今、エグベルト・ジスモンティの古いアルバムやラルフ・タウナー、あるいはジョン・アバクロンビーのECMアルバムを聴き返しています。そして今では、なぜ私が彼らにそれほど魅了されたのかが分かりました。それは、彼らが不完全で、エグベルトがギターやピアノで高い部分でも旋律と格闘しているアーティキュレーションに現れている弱さに、何か魅力的なものがあったからです。いくつかのミスタッチによる二重に音が重なっている音が弾かれていて、うわあ、これがレコードに入ってるんだ、と思うんだ。
一方、私が何度かやったように、私が自分のアルバムを制作するとしたら、最終的には自撮り写真になります。さて、実際に鏡像である自撮りは、自分自身を最もよく表しているのでしょうか?
私はそうは思いません。だから、セルフ・プロデュースのアルバムというのは、特に今のテクノロジーでは、修正するのがとても簡単なので私は急いで修正しましたし、実際にそういうものです。でも、マンフレートが部屋にいるときに何かの間違いや音を急いで修正しようとしても、彼は直させないだろうね。
彼はあなたに続けなさいと言うし、私も続けます。私は何度も言いました。マンフレート、どこで私がFシャープを弾いているのか聞こえるでしょう? 彼はそれが聞こえると言います。私はよかった、その音量を小さくするつもりだと言うと、彼は “ノー “というでしょう。「そうじゃなくて、それがあなたが演奏したものなんです。」と。それだけでなく、彼はその音量を上げるつもりだ。まあそれは言い過ぎかもしれないけど。彼はそういう写真が欲しいから、その方向に向かっているんだ。
彼は俳優からそのテイクを望んでいる。しかもテイクは2回だけだ。まるでウディ・アレンがケイト・ブランシェットと映画を作っているようなものだ。誰もがウディ・アレンやポランスキー、昔ならヒッチコックと仕事をしたがる。なぜなら、彼らは他の誰ともできないような演技を彼らから引き出すからだ。
だから、あのレーベルとの仕事は素晴らしい団結した合同作業なんだ。マンフレートには多くの称賛を贈りたい。レーベルのコンセプトのおかげで、過去3作のようなレベルに達することができた。あのECMからの私の作品は、以前のアルバムよりも本物の、オーセンティックな作品になったと思っています。
- 個人的にこのエリック・カントナの例えは少し不適切かなぁ、と思います。まず、カントナはフランス代表でもマンチェスター・ユナイテッドでも、FWの時期が長かった。そして、凄い選手なんですが、結構自己主張が強くてトラブルが絶えず、かなり「暴君」的なイメージが世間一般に強いので・・・。 ↩︎
- Personally, I find the Eric Cantona analogy a little inappropriate. First of all, Cantona spent a long time as a FW for both France and Manchester United. And, although he is a great player, he is quite assertive, always causing problems and has a very ‘tyrannical’ public image. ↩︎