■ In A Dream – Peter Kater,Dominic Miller ■
■ Musicians ■
■ Dominic Miller(ドミニク・ミラー):Acoustic Guitar
■ Peter Kater(ピーター・ケーター):Piano
■ Jaques Morelenbaum (ジャキス・モレレンバウム):Cello(Track:3,6,9,11)
■ Kenny Loggins (ケニー・ロギンス):Vo(Track:3,5,7,10)
・Recording - Home Base(Santa Barbara:CA),Casa Do Mato Studios(Rio De Janeiro:Brazil)
・Producer - Peter Kater
・Recorded By,Mixed By – Peter Kater
・Mastered By – Dave Glasser
■ Songs ■
01. In A Dream(4:31) 02. Time Will Tell(4:08) 03. What Lies Within(5:12) 04. And We Danced(2:48) 05. Close To You(4:35) 06. Chasing The Sun(4:49) 07. In Her Eyes(5:08) 08. Gut Feeling(4:01) 09. Clockwork(5:53) 10. Hand In Hand(4:45) 11. Folk Story(3:17) Written By:Peter Kater Except:Tracks:8,11(Dominic Miller) Track:6(Dominic Miller & Peter Kater)
■ Release ■
■ Release Date:2008 ■ Rabel:Point Of Light Records(US) ■ Number:POLR3080 ■ CD,Album ------------------------------------- ■ Release Date:2008 ■ Rabel:Q-Rious Music(Austria) ■ Number:QRM 111-2 ■ CD,Album,digipak
■ Comentary ■
「In A Dream」 (2009)はアメリカのピアニスト/コンポーザー、ピーター・ケイターとドミニクのデュオアルバムです。どの曲も倍音に溢れていて、それが美しい景色とストーリーを作り出しているいいアルバムです。この作品は2010年のグラミー賞「最優秀ニューエイジ・アルバム賞」にノミネートされました。
ピーター・ケイターは日本人はあまり馴染みはないかもしれませんが、この「ニュー・エイジ」といわれる分野で数えきれないほどグラミー賞にノミネートされてきた人です。長年ブロードウェイやオフブロードウェイのドラマを含む100以上のTVや映画作品の音楽を担当してきました。
ドミニクとピーターとの出会いはこのアルバム制作の約2年前に遡ります。ケーターが長編アニメ映画の音楽を担当していて、それに関わるギタリストを探していて結果的にそれはドミニクがやったそうです。そのサウンドトラックを制作するうちに2人は意気投合し、9ヵ月も経たないうちに、一緒に仕事をすれば何かが生まれるかもしれないと思って再会したという事です。
この作品には基本的には2人での演奏ですが、ブラジルの著名なチェリスト、ジャキス・モレレンバウム、グラミー賞受賞のボーカリスト、ケニー・ロギンスも参加しています。ケニー・ロギンスについてはここで改めて紹介する必要もないでしょう。
曲について
アルバム全11曲中8曲がピーターの作曲で、8曲目「Gut Feeling」と11曲目「Folk Story」はドミニクが、6曲目「Chasing The Sun」は2人の共作です。
8曲目の「Gut Feeling」。これはドミニクの曲の中でも皆さん非常に馴染みがある曲ではないでしょうか。この曲はこの作品と同時期にリリースされた、ドミニクのアルバム『November』(2009)にも収録されています。私は最初、ドミニクが自分の『November』用に書いた曲をこのアルバムにも収録したんだと思っていたんですが、違うようです。このアルバムの為に書いたようです。
この曲の解説を読むと、こう書いてあります。
「ドミニクは、レコーディング5日目の朝、ホテルの部屋でこの曲を書いた。その日、私たちはとても直感的に演奏していたに違いない。聴いてみると、ピアノとギターがまるでひとつの楽器であるかのように密接に絡み合っているのがわかるだろう。」
この曲「Gut Feeling」はこのアルバムでは非常に瞑想的で催眠的です。ドミニクはこういった催眠的(ヒプノティック)なものは好きです。でも、とてもギターとピアノがお互いに響き合っている印象です。そしてそのヒプノティックな雰囲気はイントロに割と残ってはいるものの、『November』でのこの曲はエレキとシンセでの演奏なので印象は全然違います。
そしてまた、実際の彼のライブでのこの曲の演奏はこれまた印象が違う。ドミニクはライブではもっともっと空間の広がりや全体のサウンドスケープを強く描き出します。このRigaでのライブの動画では改めてドミニク・ミラーというギタリストの凄さに身震いします。恐ろしい演奏です。こんな凄いエレキギターの音はなかなか他では聴けないと思います。様々に音色や表現を駆使し、誰もが永遠に聴いていたくなるような、そんな心地の良い空間を作り出している。でもドミニクがエレキでここまで人の気持ちを惹きつける音を出せるのも、彼が普段はアコースティック・ギターをメインに演奏している、という事が大きく影響していると思います。
この3つ、是非聴き比べてみてください。その印象の違いがとても面白いです。
このようにアレンジによって本当に印象が変わる所が「インストゥルメンタル・ミュージック」の持つ面白さの一つだと思います。それは特にドミニクやこのピーターの作るインストルメンタルの曲には、色々と手を加えたり、聴く人それぞれが想像したり解釈する余地、空間が沢山残されているからだと思います。 上の2人で話している動画で、ドミニクはこのように言っています。 「ピーターは信じられないほど強いメロディーを書くと思うし、それは私が惹かれるものでもある。私はこれまで、信じられないほど多作なピアニストやギタリスト、ベーシスト、ドラマーたちと仕事をしてきた。でも、私が一緒に仕事をした中で、メロディーのセンスがとても強いミュージシャンはほとんどいなかった。彼のメロディーは、多くのヴィジョンを生み出し、とてもパノラマ的なんだ。 だから歌詞は必要ないんだ。インストゥルメンタル・ミュージックでも、本当にいい歌と同じくらい、いや、それ以上に強い音楽を作ることができるというアイデアが大好きなんだ。インストゥルメンタル・ミュージックは歌と同じで、ストーリーがあるんだ。このアルバムの素晴らしいところは、リスナーがそのストーリーを決められることだと思う。」 このドミニクのコメントは彼の音楽上の絶対的なポリシーの代表的なものでしょう。彼がインストルメンタル音楽に拘るのもこれが理由です。 11曲目の「Folk Story」は上に、この曲の実際のコンサートでの演奏動画を上げておきました。曲に関してはアルバムのクレジットにこのように書いてあります。 「ドミニクは最後のセッションの朝にこの曲を書きました。 ピーターはすぐにその曲に夢中になり、演奏するメロディーを与えられたことに感激しました。 ワンテイクで録音しました。」 インタビューでも、ピーターが正直なところ、私たちは二人共、あまり準備ができていない状態でここに来た、と言ってるので、なんだかとてもギリギリで行ったかなりスリルのある作業だったようです。実際に取り組みながらお互いの音楽をよく知ることから始め、新しい世界を作ることにチャレンジしたようです。この辺りの事についてはドミニクはインタビュー内でこう話しています。 「クリエイティブなことをやりたければ、どの場所でやるとか関係なくて、どこでもできる。これは内面的な仕事だと思う。本当の自分自身とつながることができるかどうかが大きな問題なんだ。インストゥルメンタル・ミュージックを作ることは、まさにそれなんだ。そしてこのアルバムは、まず自分自身との真のつながりをテーマにしている。次にピーターと、そしてこれに興味を持ってくれそうな人と、真摯につながることをテーマにしている。このアルバムで一番大切なのは、真摯なものを作り上げることなんだ。そして、音楽業界で誠実に行動するのは非常に難しいことです。」 「音楽業界で誠実に行動するのは非常に難しいことです。」この「難しい」という言葉にはきっといろんな事や意味が含まれているんでしょうね。 2人の共作6曲目「Chasing The Sun」ですが、ギターとピアノってこんなに合うんだな、と思わせてくれる素晴らしい響きをもつ作品です。個人的にピアノとギターのデュオってバランスが難しいと思っています。どちらも楽器としては音楽的にその1台で十分完結できる楽器なのでうまく分担しないと役割が被ることもあると思います。だけどこの作品はそんな事は一切ないですね。でも、その辺の事は当然ドミニクは意識したようで、このように言っています。 「私たちには明確な役割がある。それがうまくいく理由なんだ。私には私のサウンドがあり、彼には彼のサウンドがある。彼がメロディーを取る瞬間もある。でも面白いのは、自分たちが何をやっているのかよく分かっていないことだと思う。でも、それがユニークなクオリティを生み出しているんだ。ピアノとギターはよく似た楽器だけど、僕らの役割はまったく違うと思う。それが僕にとって興味深いことなんだ。」 この作品、とてもいい佳作なので、聴いた事がない方がいたら、是非聴いてみてください。きっと色んな景色が見えると思います。
■ Video ■
この曲「Fork Story」はドミニクが書いた曲です。Folkというだけあって非常に素朴なメロディラインで、純粋な美しい景色を感じさせる曲です。
しかしこういう曲をドミニクは1日で書いて仕上げるんですね。ドミニクはギタリストとしても卓越した技術を持つ人ですが、コンポーザーとしての能力が非常に高い人です。いや、彼の場合、素晴らしい作曲家がギターを使って自分の音楽を表現していると言えるだろうと思います。そして仕事がとても速いですよね。やっぱり本当に経験が豊富であり、凄いと思います。
2人でのインタビュー動画では2人の音楽に対する価値観の非常によく似ている部分を話しています。しかし1点だけ、曲の「長さ」については意見の相違があったようです。
ドミニクが書く曲はどちらかというと短いものが多い。そしてライブの時はそれをアレンジして少し長くするのが彼の基本的なやり方です。
だからドミニクはピーターの曲を少し短くまとめたかったみたいです。こんな事を言ってます。
「君はとても力強いメロディーを書くから、僕は君のメロディーを5分じゃなくて3分か4分の曲にまとめられるような形に編集したいんだ。そのことについて議論していたんだけど、君は曲を6分にすべきだと言い、私は3分か4分にすべきだと言う。それは良いセックスみたいなものだ。英国式スタイルだ。」
もう〜、折角の真面目な素晴らしい議論にいきなり下ネタぶっ込んできて、ドミニクはとても楽しそうです。ピーターは「あちゃー、なんて事を・・・。」って感じで呆れて笑ってます。しょうがない人ですね全く。まぁでもはっきり言って私のドミニクのイメージは結構こういういたずらして無邪気に喜んでる印象が強いんですよね・・・。もうこの時ドミニクは50歳近い筈ですが、こういう少年ぽさがすごく残ってる印象です。まぁ私はそういう所がとても好きだったんですけどね(笑)この頃のドミニクは若い時とはまた違うかっこよさがあって本当に好きです。まあ、今のドミニクもこんな感じだと思うけどね!
■ Review-1 ■
レビュー:グラミー賞にノミネートされた『In A Dream』は、一度夢中になって何度も聴いても、今でも魅了され、興奮し続ける作品の 1 つです。 ピアニスト兼作曲家のピーター・ケイターは、今回、ケニー・ロギンス(ボーカル)、ジャック・モーレンバウム(チェロ)、そして歌手スティングと何年もステージやレコーディングを共にしてきたギタリストのドミニク・ミラーという貴重なコラボレーションを行う。ケイターと映画の音楽プロジェクトに参加することになった。 彼らは一緒に仕事をすることが夢だと決めた。 なんと成功したプロポーズでしょう!
『In A Dream』は純粋な驚きだ。 アルバムのタイトルにもなっているこの曲には、モーリス・ラヴェルの有名なボレロを彷彿とさせる部分があり、ギターとピアノが完璧に理解し合い、甘い情熱と悲しい嘆きの間に収まるメロディーを生み出しています。 素晴らしい作品です!
メランコリックで後悔に満ちた性格の「Time Will Tell」もギターとピアノのために作曲された曲だ。ここでも両楽器は、独特の繊細さでメロディーを交互に奏でている。希望の門を必死に求める強い嘆き。
「What Lies Within 」は私のお気に入りのひとつだ。速さとは無縁に力強く魅惑的な音楽だ。ピアノが情熱的なアルペジオを弾き、ヴォーカル、ジャックのチェロ、ドミニクのギターが、この美しく驚くべき曲の力強さ、強さ、大胆さを際立たせている。本当にスリリングだ!
「And We Danced」。穏やかなリズムの中、ケーターがピアノの和音をアルペジオで奏で、ドミニクのギターが優雅なメロディーを楽しげに奏でる。ギターがアルペジオで和音を奏で、ピアノが前面に出てくるという役割の変化には驚かされる。
親密でリラックスした雰囲気の 「Close To You 」では、ミラーが疲れ知らずのドラムを叩き、ピアノがロマンチックなメロディーを維持し、ヴォーカルが添えられる。やさしく、なだめるような曲だ。
高揚感があり楽観的なのは「Chasing The Sun」だ。少し速いテンポで、ピーターとドミニクが優雅にメロディーを奏で、聴く者の気分を高揚させる。私のお気に入りのもう1曲!
「In Her Eyes」は、深いまなざしの中に美を探す。楽しく、ゆったりと静かな音楽だが、限りなく感動的だ。ロマンティックな構成は、思索の美しさを引き立て、魂に触れ、心地よく親密な雰囲気を作り出す。
「Gut Feeling」は、ミラーがこの作品のために作曲した最初の作品。甘やかされた驚くべき繊細さがギターとピアノを一体化させ、両楽器がいかに聴き手を驚かせないように細心の注意を払い、美しい同盟関係を保っているかを示す儚い音楽に生命を与えている。信じられない!
ギターとピアノのリズミカルなダンスが「Clockwork」だ。明確なメロディを持たない両楽器は、チェロとともに、速いフィンガースタイル・ギターのかき鳴らしとマークされたピアノの和音によって生み出される煽情的な音楽を再現する。
「Hand In Hand」は、楽器間の柔らかな会話と優しいヴォーカルが浮かび上がり、聴き手を温かい音符の毛布で包み込む、愛すべき楽曲だ。この作品のもうひとつのハイライト。気に入った!
ミラーが最後に作曲した「Folk Story」は、ピーターがこの曲を聴いたとき、その美しさに魅了され、ギター、ピアノ、チェロ用にアレンジした。ゆっくりとしたテンポの曲で、優しい音色がもろに美しさを現している。なんという感性だろう。
無形の音符がハーモニーを奏でることで、私の感覚を身震いするほど撫でるような美しいものができるのだろうかと思うのだが、イン・ア・ドリームはそれをやってのけた。ピーター・ケーターとドミニク・ミラーは、極上のエキサイティングなアルバムに生命を与えた。2人の偉大なアーティストが一緒になることで、唯一無二の信じられないものを生み出すことができる傑作、それが『In A Dream』だ。天才的で不可欠なCDである。【reviewsnewage.com/Alejandro Clavijo】