■ Dominic’s Words ■
ここでは、ドミニクが様々なインタビューなどで話していた事で、重要だと思われる言葉をピックアップして紹介していきたいと思います。
私がドミニクが好きなのは、勿論彼の音楽が大好きだからですが、でもそれと同じくらい、彼がインタビューなどで語っている言葉に共感でき、尊敬できるし信用できる人だとすごく感じるからです。
それは彼の音楽哲学だったり、彼の仕事への取り組み方の姿勢の部分などです。私は今、このサイトの為に、再度彼のインタビューなどを古いものも新しいものも読んだり聴いたりしていますが、彼の言っている事を知れば知るほど、私はドミニク・ミラーという人をますます「人間としてとても好きだな」と感じます。彼は本当に正直に、カッコつけたりもせず、語る人です。
正直、日本での彼のイメージを見たり聴いたりすると、私はちょっと「そりゃ違うでしょ」と思う事が多いです。やっている音楽がすごく繊細だからそう思われるかもしれませんが、「神経質そうで心を他人にあまり開かなさそう」とか彼が言われているのを見ると、私は驚いて椅子からずり落ちそうになります。
彼はそりゃとても繊細でロマンティストな感性を持ってる人でしょう。だけど仕事の現場などで、他人との間に壁を作ってなかなか打ち解けないような人ではないです。自分の言いたい事ばかり主張してそこに拘るような人でも無い。むしろ彼は真逆な人だと私は思います。
私は勿論彼と一緒に仕事をした事がある訳ではないです。会って話したのも1度、せいぜい15分程度です。だけど、彼の今までの過去のやり方や言葉をみていれば、私はそれは断言できます。彼は仕事の現場で他人に気を遣わせるような、そういう人ではない。「現場で他人と一緒に何かを創り上げていく事」を骨の髄まで理解している人だと思います。私は彼は仕事の現場を知り尽くしたプロ中のプロであると感じます。
彼はこれだけの長い間、生き馬の目を抜くような音楽の世界でずっと第一線でやってきた人です。それは確かに抜きん出た才能は絶対条件の世界です。しかしそれだけで通用し、長く様々な人に重宝されるような甘い世界だとは私は全く思いません。そうでなければ2019年の段階で250枚もの作品のレコーディングになんか呼ばれないでしょう。むしろ彼は、現場では自分から率先してその場を和ませるような楽しい雰囲気を作ろうとする人だと思います。
彼は良く「自分は幸運に恵まれたミュージシャンだ」と言いますが、私は彼は間違いなく、その高いプロ意識による行動で、自らの手でチャンスを掴み、キャリアを積み上げて作り上げてきた人だと思います。
また彼は、これだけの凄い経歴のレジェンド・ミュージシャンの一人ですが、未だにたった一人のお客さんでも大切にしようとする人です。これは彼のライブに一度でも足を運んだ事がある人ならきっと理解できるんじゃないでしょうか?
ここで少しでもドミニク・ミラーというミュージシャンがどういう人であるか、ということが皆さんに伝ればいいなと思っています。
– JAZZthing TV Report – November (2010)
まずはこの動画です。彼はチームワーク、バッハの音楽、良い音を作るのは自分であって楽器ではないこと、マヌ・カチェやピノ・パラディーノとやっていた「The Tweeters」についても話していますが、ここでは彼の仕事観の部分についてのみ言及します。
- 私は人々が何かをしていることを見るのが大好きです。病院で、本当に熟練していて、何かをうまくやろうと献身的に取り組んでいる看護師に会ったら、それが私にインスピレーションを与え、ギターをもっと上手に弾きたいと思うようになり、自分の仕事をもっとうまくやり遂げたいと思う。
- あなたが好きなように演奏すればいい、テープが巻かれるままにしておけばいい、とだけいうプロデューサーもいます。自分たちが望むものについて非常に具体的な人もいますし 、実験を好むプロデューサーもいます。実際にうまくいく方法が 1 つだけというわけではないことはあなたもお分かりでしょう。
- スーパースターと一緒にプレイできるのはとても幸運なことです。彼らは私が一緒にプレーする人のほんの一部ですが、スーパースターなどと一緒に仕事をするときは、彼らはとても集中しているので、とてもやりやすいんです。私は彼らが成功している理由がわかります。なぜ成功しているかというと、彼らは自分がやっている事を理解しているので、そのようなレコードで演奏するのはとても簡単なことなんです。曲がとても良いからあれやこれやと自然に演奏できるんだ。良いレコードが少ないスターの場合、何か手助けになる事を私は考えないといけない。
- 私は傭兵なんです。誰とでも、どんなアーティストとも仕事をします。私がアーティストを選ぶのではなく、彼らが私を選ぶんです。あなたが嫌いだから、あなたのレコードには参加しません、とは言えない。私はプロのギタリストなんです。現実を見ましょう。スタジオで誰に会うかわからないんです。テープ起こしの人とか、好きなお茶を淹れてくれる人や自分を世話してくれた人達が、10年後、成功して「自分はあの時の彼が好きです。だから彼を呼ぶつもりだ。」と言うかもしれない。そうやって私はキャリアを積んできたんです。
ドミニクは、高い技術を持つ看護師や他の職業の人たちが懸命に働いているのを見ると、自分ももっと頑張ろうと思うのだという。でも、他のミュージシャンで、ミュージシャン以外の一般的な定職についている人たちの仕事ぶりから刺激を受けるという人はあまり見たことがない。彼は一般的な仕事をしている人よりも、更に仕事への意識が高く、強い向上心を持っている人だと感じます。
そして「自分は傭兵であり、自分が仕事を選ぶのではなく、自分が選ばれるのだ」という言葉です。
つまりプロデューサーやミュージシャンに対してだけではなく、それ以外のスタッフにも誠実に対応しなさい、と言っているわけです。いつ、誰がどんな風に自分を見ているかわからない。誰にでもきちんと誠実に対応することが次の仕事につながるんだ、という彼のこの言葉は本当にプロ意識の高さを感じます。仕事をする上では当たり前の心構えではあるんですが、なかなか実行できる人は少ないし、ミュージシャンでこういう話をする人は本当に珍しいと思います。しかし、こういったとても大事な事を改めて言ってくれる人はとても貴重だと思います。
私はもうドミニクはただの一人のセッション・ギタリストなどとは全く思っていませんが、長く彼はこういう意識で仕事をやり、更に次の仕事を獲得してきた訳です。そしてそのたゆまぬ努力が今の彼を創っている。この世界には星の数ほど多くの才能あるギタリストがいて、チャンスさえあれば誰かから仕事を奪おうと狙っている。ドミニクのような高い意識を持たなければ生き残れない、本当に厳しい世界なのだろうと思います。ただ、これはどの仕事においても心がけるべき事だろうと思います。非常に考えさせられる言葉です。