ドミニクの事を語るなら、避けて通れないのがこのスティングとの共作である『Shape of My Heart』という曲の事でしょう。オリジナルはスティングのアルバム『Ten Summoner's Tales 』(1993)に収録されています。この曲は世界中で、もちろん日本でも非常に愛されている曲です。しかし、特に日本では知らない人が多いのですが、この曲はドミニクが書いたものです。スティングが担当したのは作詞です。この曲は2人の共作です。この事は最初に知っておいてください。
この曲は、歴史に残る名作です。世界で大ヒットしたリュック・ベッソン監督の映画『LEON』のエンディングに使われた事もあり、もはや「古典」といってもいいくらいに世界中の人に広まり、愛されている曲です。世界中の多くの人が演奏したり、或いは自分の曲の一部として使っており、無数のヴァージョンが存在します。
この曲に関して、ドミニクがつい先日YouTubeで公開されたリック・ビアトさんとのインタビューの中で詳しく話しているので、それをご紹介しましょう。リック・ビアトさんとのインタビューは過去にもスティングと一緒に出演して非常に話題を呼びました。その時のインタビューについては後日ご紹介します。
この最近の動画についても、とりあえずここでは『Shape of My Heart』に関することだけ言及します。この動画は収録時間が1時間以上にもなり、『Shape of My Heart』の話題以外にも、最近彼が取り組んでいる仕事の事やスティング事など多くのトピックについて話しています。ですからこのインタビューについてはトピック毎に内容を分割して投稿していきます。
まず、このインタビューの話に入る前に、この曲がどういう風に作られたのか、その背景を最初に説明します。
この曲は最初はドミニクが自分のギターの練習用のモチーフとして作って弾いていたものでした。その話を過去のリック・ビアトの動画にスティングと一緒に出た時にこう話しています。
「あのリフの背後にある真実は、私が実際にそのモチーフを自分自身のための練習として思いついたということです。単なるウォームアップ練習としてでした。6度の和音です。あのリフの真意は、6度の和音に基づくウォーミングアップの練習として、自分のために思いついたモチーフなんだ。ショパン・タイプのコード、ピアノのコードからインスピレーションを得たんだ。ジョン・マクラフリンがコード・シークエンスを書くのと同じように私はただそれをいじっていただけです。彼は3度をあまり明確に表現していなくて、6度でそれが何なのかを表現していた。それで、私はただそれを楽しんでいた。」
そのドミニクの練習用に弾いていたモチーフを気に入って 、ちゃんとした曲にしようと言ったのがスティングです。スティングはそのドミニクの練習曲をヘッドホンで聴きながら散歩に出かけ、数時間後には歌詞を作ってきた。そしてたった1日で誕生したのが、この『Shape of My Heart』という曲です。だからドミニクは「自分はその練習用のものを曲にするつもりなんかなかったから、そこに目をつけたのは、スティングのソングライターとしての想像力だ。」と話しています。
さあ、ここから本題です。このリック・ビアトとの動画でドミニクが この曲の演奏について話している事を整理します。
まず、冒頭でリックがこのように語っています。
「人々が YouTube で 『Shape of My Heart』 を間違って演奏しているという事実について話していました。」
それに対してドミニクはこのように語っています。
「人々がそれを解決しようとしてくれていることを嬉しく思います。私がこれを思いついたときは特に真剣に考えていたわけではありませんでした。それはそういったよくある間違いの1つです。正直に言うと、人々が『これがうまくいく方法だ』と教えるつもりなら、少なくともそれを正しく理解してください。」
つまり、YouTubeを見ると、確かにこの曲の「演奏方法」の解説動画はいっぱいありますが、しかしそれらの動画の多くは「間違っている内容のものが多い」と言ってるわけです。私はギターを弾かないので知らなかったのですが、この曲はシンプルなようでいて、実はギタリスト泣かせの演奏が難しい曲らしい。
さあ、ではどうしたらこの曲を演奏してみたいギタリストは一体どうしたらいいんでしょうか?そしてその「間違った情報」が広まった「原因」は何なんでしょうか?
色々と話がややこしいので、結論から言います。
皆さん、以下の赤い壁部屋のビデオでドミニクがやっているように見えることを参考にしないでください。このビデオはあくまでも撮影用であり、ドミニクはオリジナルと同じように演奏しているわけではありません。したがって、このビデオを見てこの曲を理解するのは『間違い』です。
この『Shape of My Heart』という曲には、演奏の時に問題になる「厄介なコード」があります。それが上の写真の赤枠で囲っている部分のコードです。では、この枠内の部分をドミニクはオリジナルである『Ten Summoner's Tales 』収録時にどのように弾いていたのでしょうか?
ドミニクはその事を(0:48)あたりから説明しています。
彼がこの曲のオリジナル録音時に使っていたのは一般的なアコギではありませんでした。使っていたのは上の写真で彼が弾いているフェルナンデス、P-Project/A1-Nというエレクトリック・ナイロンストリングス・アコースティックギターでした。このギターの形状はほぼエレキギターと同じですから、ボディ下側の「カッタウェイ」の部分が深いので、ハイポジションのコードでも弾きやすい。だからオリジナル録音時にはドミニクはかなり高い位置でこのコードを弾いていました。
しかし、アコースティックギターを使用する場合、P-Projectのギターと違い、「カッタウェイ」は無いので、そんな高い位置で演奏するのは弾く事は難しい。だからライブの時、ドミニクは少しだけ演奏方法を変更しました。そして、その高めの位置で「問題のコード」を弾く方が今皆さんがトライしている方法より本当は簡単なんですね。
そして実はドミニクはそのライブの方法を更に変えました。なぜならライブでそんなに高い位置で演奏すると、チューニングだったり音調の問題が出てくるので、ドミニクはこの部分のコードをもっと低い位置で弾くように再度「変更」しました。それが現在のライブでの基本的なやり方でした。
ただ、この低い位置でこの「問題のコード」を「立って」演奏するのはドミニクでも非常に難しくてキツイ。だから「立って」いる時は少し弾きやすいように改良して最近まで長い期間演奏していたそうです。
「最近まで」。そうなんです。最近は立っていても本当の難しいやり方に戻して演奏しているそうです。
何故なら彼が最近見た、この曲の弾き方を解説しているYouTubeの「ある動画」で、「この難しいコードは作曲者のドミニク・ミラーでさえライブで演奏することを避けている」と配信者に言われてしまったからです。だからドミニクは正しい演奏に戻した理由を「その動画の配信者に正しく理解してもらいたくて、難しいし本当に苦労しているけどちゃんとやってるんだ!」って言っていますね。
まあこれはドミニクの一種のジョークでしょうが、こういう風に彼が言うのは、やっぱりこの曲の演奏方法に対する誤解が広まってしまっているからでしょうね。その誤解の元になってしまっているのが上にある、スティングとドミニクがスティングの赤い壁の部屋で2人でこの曲を演奏している動画なんです。
この赤い壁の動画でのドミニクの指の動きを見てもダメなんです。この赤い壁のビデオでのドミニクの指の動きは正しくないんです。この動画は単なる撮影用でした。しかし「ある動画」の配信者は、この赤い壁の映像を見ながら、一体これはどうなっているんだ、理解できない、ひょっとしたら弦のチューニングが変更されているのではないか?とまで推測している。
だけどドミニクはそんな妙な事は一切考えていなかった。それはこのリフが転調しようが弾き方は同じです。(この上の動画で確認してもらえればわかりますが、この曲は02:20辺りで一度リフは転調し、また戻ります。)
これに関しては、ドミニクはみんながこの赤い壁の動画を真剣に見ているとは全く予想外だった、でもこんなこの曲に関する色んな経緯は自分以外の他の人にはわかるわけないから、その動画の配信者や他の人たちが悪いわけでもなんでもない、と言っています。そして、
「でもいいんだ。こういうのは全部いいんだ。YouTubeの配信者やエデュケーターだって、自分のやっていた詳細が正しく伝わっていなかっただけなんだ。こんなこと誰にもわからないよね。でも、そんなことはどうでもよくて、みんながこの曲を弾きたい、この曲を教えたいって思ってくれることが本当に嬉しいんだ。だからもしちゃんと弾きたいと思ってるなら、ちょっとトリッキーな曲だから、みんなに弾き方を教えてあげたいんだ。」と言ってます。
ではこの曲を「正しく」演奏するにはどうしたらいいでしょう?そしてその為のドミニクからのアドバイスは?
- ①ベースラインの最初の8分休符と、続くシンコペーションのリズムをしっかり意識する。しかし本当に静かに。
-
このリック・ビアトの動画の(05:20)辺りからドミニクが演奏しながら説明しています。
「多くの人が間違えているのは、最初の音符から始めるからです。でも、それだとロールしないんだ。ロールする必要があるんだ。今は明らかにベースを誇張してるけど、普段はブラッシングしてるだけだから本当に静かに演奏してるよ。」
確かに実際、ドミニクの演奏は最初の1小節目のベースラインは最初の8分音符が抜けていて、そのままシンコペーションになっています。そうしないと音楽が上手く自然なグルーヴで流れていかない、という事です。ドミニクが出している楽譜集「Songbook for guitar」の中でも、ちゃんとベースラインの頭は8分休符になっています。
- ②しかし、これを出来るようにするためにはゆっくりと、そして音をちゃんと聞きながら練習してください。そうすれば上手くいく。
-
(9:46)辺りでドミニクが言っています。
「でも、もっと詳しく説明することもできるんだ。本当にこういうことは、ゆっくり取り組むのがコツなんだ。なぜなら、こうやってゆっくりやれば、うまくいく可能性がある。そしてその音に耳を傾けるだけでいい。」
これはもうドミニクがいつも言っているアドバイスです。この曲だけでなく、練習はゆっくり、ちゃんと音を聞きながらやることが重要です。
- ③ドミニク自身の解説動画を見ましょう。
-
やっぱり本人が解説してる動画を見て学ぶ方が一番為になるんじゃないでしょうか?
さあ、非常に長くなってしまいましたが、皆さん理解していただけたでしょうか?これで少しでも多くの人がこの曲を演奏するヒントになればいいなと思っています。
追記:今回、この記事を書くにあたって友達のギタリスト、Mr.TANIGUCHIに多大なるご協力を頂きました。どうもありがとう!私はギターを全く弾かないので、この話を最初理解するのに苦労しました。なんせドミニクが言っている「カッタウェイ」って何?何でハイポジションの演奏がエレアコのP-Projectでは演奏できてアコギでは出来ないの?から始まりましたから。本当に助かりました。どうもありがとう!
When talking about Dominic, it’s inevitable to mention the song he co-wrote with Sting, “Shape of My Heart”. The original version can be found on Sting’s album “Ten Summoner’s Tales” (1993). This song is loved not only in Japan but all over the world. However, many people, especially in Japan, do not know that this song was written by Dominic. The lyrics was written by Sting. This song was written by the two of them together. First of all, I want you to know this.
This song is a historical masterpiece. It was once used as the ending to Luc Besson’s film ”LEON (UK:The Professional)”, which was a worldwide hit, and the song is so popular and loved by people all over the world that it can now be considered a ‘classic’.
Many people around the world play it or use it as part of their own songs, and there are countless versions.
Dominic talked more about the song in an interview with Rick Beato that was recently posted on YouTube. Dominic has appeared in Rick’s videos with Sting in the past and they have received a huge response. I will post the interview later day.
As far as this latest video is concerned, only the ‘Shape of My Heart’ part will be mentioned here. This video is over an hour long and apart from ‘The Shape of My Heart’ Dominic talks about many other topics including the work he has been working on lately and about Sting. Therefore I will post the content of this interview divided into topics in this website.
First of all, before we get into the story of this interview, let me give you some background on how this song was written: The song was originally written and performed by Dominic as a guitar practice motif when he appeared with Sting in an earlier Rick Beato video, Dominic said.
“I just actually came up with that motif as an exercise for myself, just as a warm-up exercise based on sixth chords. And it’s like it’s inspired by, like, Chopin-type chords, piano chords. I was just playing around with it, like the way John McLaughlin would write chord sequences. He wasn’t really articulating the third so much – it’s much more about the sixth that tells you what it is. And so I just had fun with that.”
So here’s the main point. Let’s look at what Dominic says about his performance of this song in this video with Rick Beato.
First of all, Rick says this at the beginning.
“We were just talking about the fact that people playing ‘Shape of My Heart’ incorrectly on YouTube.
In response, Dominic said this (0:24);
“I’m happy that people are trying to work it out. I wasn’t really trying to work it out when I came up with it, but one of those things it. To be honest with you, but if people are gonna educate and say ‘this is the way it’s done well’, then at least, get it right. “
In other words, if you look on YouTube, there are a lot of videos teaching how to ‘play’ this song, but the content is often ‘wrong’.
I didn’t know this because I don’t play guitar, but although the melody of this song is simple, there is some awkward chords, it is actually very difficult to play.
So what on earth is a guitarist who wants to play this song supposed to do? And what is the ‘cause’ of this ‘misinformation’ being spread?
The story is complicated, so I’ll start with the conclusion.
Everyone, please don’t refer to what Dominic seems to be doing in the video of the room with the red walls below. This video is only for film recordings and Dominic is not playing here as he actually does like an original. So it is a ‘mistake’ to understand to play this song by watching this video.
This song ‘Shape of My Heart’ has ‘tricky chords’ that cause problems when playing.
These are the chords in the red box in the picture above.
So how did Dominic play this song when it was originally recorded for ”Ten Summoner’s Tales”?
Dominic explains this in this video around (0:48〜).
The guitar he used for the original recording of this song was not a standard acoustic guitar. He used a Fernandez, P-Project/A1-N(photo above), electric nylon-string acoustic guitar. The shape of this guitar is almost the same as an electric guitar, so the “cutaway” on the side of the body is deeper, making it easier to play high-position chords. So when the original recording was made, Dominic was playing these chords in a very high position.
However, when using an acoustic guitar, unlike the P-Project guitar, it is difficult to play this so high position because there is no “cutaway”. So when it came to live performances, Dominic changed his playing a bit. And it’s actually easier to play the “problem chord” in that higher position than what you’re doing now.
And actually, Dominic has further changed the way he does it live even more. Dominic has again ‘changed’ the way he plays this part of the chord to a lower position, because playing it so high at live would cause tuning and intonation issues.
However, it is very hard even for Dominic to play this ‘problem chord’ ‘standing’ in this low position. So when Dominic plays it ‘standing’, he changed the problem chord again, making it a little easier to play. And he has been playing it this way for a long time, until recently.
‘Until recently’. Yes, that’s right. Dominic has recently been playing it the really difficult way, even standing up. Because in a video Dominic recently watched explaining how to play this song, the streamer of this video said: “Even composer Dominic Miller avoids playing these problem chords live.
Dominic says that the reason for this is “that it’s very difficult and he’s struggling to play it, but he wants the streamers in the video to play it properly, so he’s doing it right!”
Well, this is probably Dominic’s little joke, but he says this because there is a lot of general misunderstanding about the way this music is played. This misunderstanding stems from the above video of Sting and Dominic playing this song together in Sting’s red walled room.
Dominic’s fingering in this red wall video does not capture the ‘chords in question’ correctly. This video is simply a recording. However, the video streamer who watched this red wall video inferred that. ‘I don’t understand what he’s doing. Has he changed the tuning?’
But Dominic had no such strange ideas. The way this riff is played, transposed or not, is the same. (As you can see in the video above, this riff is transposed once at 02:20 and then back again.) In this regard, Dominic said that he did not expect people to take the Red-Wall video seriously, and that it was not the video streamer’s or anyone else’s fault, as no one but him knew the various circumstances surrounding the song.
And he says;
“But it’s fine. All these things are it’s all fine. I’m really cool with it and even the YouTube educator, he just didn’t get his like his details correctly. But it doesn’t really matter what I mean I’m quite happy and I’m really just happy that people want to play this song and to teach it. To show people how to play because it’s a little bit tricky and so it’s great if people want to well this.”
So how do you play this song ‘correctly’? And what is Dominic’s advice?
- ①Be aware of the first eighth rest in the bass line and the syncopated rhythm that follows. But play it really quiet.
-
Dominic plays and explains from around (05:20) of this video by Rick Beato.
“It starts with a single note, because what a lot of people do wrong is start (together from the beginning). But then, it’s got no kind of it doesn’t really roll. It needs to kind of roll. Obviously I’m exaggerating the base there besides now, normally I just kind of brush it so it’s really quiet.”
Dominic is playing and explaining from around (05:20) of this Rick Beato’s video.
“It starts with a single note because a lot of people what they get wrong is they start. (PLAY) But then, it’s got no kind of it doesn’t really roll.
It needs to kind of roll. Obviously I’m exaggerating the base there besides now, normally I just kind of brush it so it’s really quiet.”
In fact, Dominic’s playing of the bass line in the first bar is syncopated as it is, with the first eighth note missing. Otherwise the music wouldn’t flow as naturally. In fact, in Dominic’s official “Songbook for Guitar“, the head of the bass line is an eighth rest.
- ②But to be able to do this, practice slowly and listen to the sound properly. If you do this, you will do well.
-
Dominic says around (9:46). “But I could go into more detail. But it’s just really is the thing with all these things, the trick is just to approach it slowly. Because if you do it slowly like this. You’ve got a chance of kind of getting it right. And just get the sound of it.”
This is already the advice Dominic always gives us. It’s important to practice slowly and listen to the notes properly, not just this song.
- ③ Watch an explanatory video from Dominic himself.
-
After all, wouldn’t it be the quickest and most useful way to learn by watching a video of him explaining it to you?
Well, that was very long, but I hope you all understood it. I hope this gives you a few tips on how to play this song.
PS: I would like to thank my friend, guitarist Mr TANIGUCHI, for his great help in writing this article. Thank you very much! I don’t play guitar at all, so at first I had a hard time understanding what Dominic was talking about. What is this ‘cutaway’ Dominic is talking about? Why is it possible to play the high position on an electric-acoustic P-Project, but not on an acoustic guitar? It began with such a rudimentary story. But his explanation helped! Thanks a lot, I really appreciate it!